名月と ひやおろし
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厳しい暑さも幾分やわらぎ、朝夕は涼しさも感じられるようになってきた。公園を歩くと、喧しかったセミの声に代わって、草むらから心地いい虫の音が響いてくる。本日9月9日は『ひやおろし』の解禁日だ。

 

『ひやおろし』とは、漢字で書くと『冷や卸し』。通常、日本酒は出荷前に火入れと呼ばれる加熱処理を行なって品質を保つ。が、江戸時代に、夏の盛りが過ぎて外気と貯蔵樽の酒の温度が同じくらいになると、火入れをせずに冷やのまま出荷したことから『ひやおろし』という言葉が生まれた。

 

春先に生まれた新酒がひと夏を越し、適度に熟成した『ひやおろし』は、荒々しさが消え、味に丸みと深みがある。ではなぜ、9月9日なのか。実際はまだ残暑が厳しい時期なのだが、旧暦の九月九日が特別な日であったことから決められた。旧暦九月九日は、中国の重陽の節句。9という奇数で一番大きい数字が2つ重なることから、古くから大変めでたい日とされてきた。

 

その風習が平安時代に伝来し、宮廷の儀式として定着。貴族たちが、まだ珍しかった大輪の菊を眺めながら詩歌などを詠み、健康を祝い、長寿を祈るようになったのだとか。

やがて重陽の節句は庶民の間にも広まっていく。江戸時代には、人々は薬効があるとされる菊の花びらを酒に浸した菊酒を酌み交わして邪気を払った。菊のできばえを競うコンクール『菊合わせ』が催されるようになったのもこのころから。重陽の節句は、別名・菊の節句とも言われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それにしても旧暦と新暦とでは、かなりギャップがある。約ひと月ずれるから、本来の重陽の節句は秋が深まるころの行事だったはずだ。9月9日では、菊はまだ咲きはじめだろう。新暦は毎年固定でわかりやすいが、このような違和感を感じることもある。とはいえ旧暦を何かの固定日にすると、新暦では毎年違う日になってしまって、それはそれで面倒なことになってしまうのだけど。

 

そこへいくと、とってもわかりやすくて納得なのが、月にまつわるイベントだ。moon、空に浮かぶ月のこと。そもそも旧暦は月の満ち欠け周期をベースにしてつくられているので、現実とばっちり対応していて、こればかりは新暦に置き換えて固定することができない。毎年、旧暦八月十五日は満月か満月にほぼ近い丸い月が昇るのである。

 

これが『中秋の名月』。旧暦では、七月八月九月が秋で、ひと月の日数は29日か30日なので、八月十五日がまん中の中秋となる。『仲秋の名月』と書かれていたら、それは八月の満月を指す。旧暦では七月を初秋、八月を仲秋、九月を晩秋としたためで、八月の何日とは決まっていない。

名月鑑賞の風習も平安時代に中国から伝わり、これまた貴族たちが月を眺めながら酒を飲んだり、詩歌を詠んだりしていたという。では庶民たちは月を見上げなかったのかというと、そんなことはない。月の満ち欠けは、農耕を営む庶民が暦を知る最良の手段。貴族たちよりも月と深い関係にあり、まん丸の満月は豊穣の象徴でもあった。

江戸時代になると庶民にも中秋の名月の月見が広まり、秋の収穫の感謝を込めて、芋や豆などを月に供えた。稲はまだ穂が実っていない時期だから、ススキの穂を稲穂に見立てて飾ったといわれている。

さて、今年2021年の中秋は、新暦でいえば9月21日(火)だ。東京での月の出は18時07分。月の入は翌朝05時17分。月齢は14.1で、ほぼまん丸だ。

 

夜空にぽっかりと大きな月が浮かぶ9月21日。ここはひとつ月見酒といこうではないか!もうそんなに暑くもないだろう。庭や軒先やベランダにテーブルを持ち出して、ススキを飾り、団子を供え、丸いお月様を愛でながら、これまたま〜るい味わいの『ひやおろし』をいただきたい。菊の花びら浮かべてね。

 

夏過ぎて 虫の音聞けば うるわしき 菊見月見のひやおろし

 

 

<参考文献>

酒道・酒席歳時記 著/國府田宏行 発行/菊水日本酒文化研究所

酒の日本文化 著/神埼宣武 発行/角川ソフィア文庫

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お酒と文化

【月見におすすめ】

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菊姫 純米ひやおろし

​菊姫合資会社(石川)

兵庫県産の山田錦で仕込まれた純米酒。笹の葉のような爽やかな香り、ほのかにバナナのような香りも。精米歩合65%、アルコール度18度。

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楯野川 源流冷卸

​楯の川酒造(山形)

酒米「美山錦」で醸した純米大吟醸酒を原酒のまま瓶詰め。旨味の濃い秋の味覚に合わせ、ぬる燗がおすすめ。精米歩合50%、アルコール度16度

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菊水 ひやおろし

​菊水酒造(新潟)

新潟県産米100%の純米吟醸酒。ほどよいコクと爽やかさが海や山から届く秋の味覚にピッタリ。精米歩合55%、アルコール度15度で、やや辛口。

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七田 純米ひやおろし

​天山酒造(佐賀)

山田錦の母親品種「山田穂」を、あえてあまり磨かずに本来の力を最大限に引き出した。青リンゴのようなジューシーな旨み。アルコール度17度。

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ひやおろし 飲み比べ 5本セット

秋の夜長を存分に楽しめる飲み比べセット!

ひやおろしの 上善水如/白瀧酒造(新潟)

玉乃光 純米吟醸 ひやおろし/玉乃光酒造(京都)

渓流 ひやおろし 大吟醸/遠藤酒造場(長野)

蓬莱 ひやおろし 無濾過原酒/渡邊酒造店(岐阜)

秋鶴 純米/土佐鶴酒造(高知)