梅にウグイス
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冬至からひと月あまり。まだまだ寒さが厳しい2月ではあるけれど、昼の時間が少ーし長く感じられるようになった。梅の花も、ほころびはじめている。そばを通りかかると、ほんのり甘くて清々しい花の香りが鼻にくすぐったい。

はるか奈良時代は、花見とは梅の花を観賞することだったという。遣唐使を介した中国との交易が盛んで、そのひとつとして梅文化がもたらされたのだ。万葉集に詠まれた梅の歌は110首で、桜は43首ということからも、当時の貴族たちの梅花好きが想われる。

ダウンジャケットを羽織って近所の公園で観梅していると、花の甘い香りに誘われてだろう、緑色の小さな鳥がやってきた。枝の間をせわしなく飛び渡りながら、花をつついて蜜を吸っている。はじめて見たときは、おお、これが花札にもある『梅にウグイス』ってやつかと妙に感動したのだけど、じつはこの緑の小鳥はウグイスではなかった。

 

ウグイスは里山の藪の中にいることが多く、姿を見せることはめったにない。雑食性で虫やクモ、植物の種子などを食べている。梅の花の蜜を吸っていて緑色なら、それはたいていメジロだろう。でもこのメジロの方が、私たちがイメージするウグイス色をしているからややこしいのだが、図鑑で調べてみると、本当のウグイスはうぐいす餡のような緑ではなく、もっと茶色っぽかった。

お酒と文化
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メジロ

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ウグイス

そして、もうひとつ。ウグイスといえば、♪ホーホケキョ♪というさえずりだ。梅の木にやってきた小鳥は♪ホーホケキョ♪とは鳴かない。もっともウグイスが♪ホーホケキョ♪の美声を聴かせてくれるのは、繁殖期にあたる初夏なのだけど。
 

たしかに『梅にメジロ』より『梅にウグイス』の方が響きもいい。というわけかどうかは知らないけれど、日本酒の酒器に、梅の花が描かれた『うぐいす徳利』なる代物がある。鳴き徳利ともいわれ、代表的なデザインは六角柱の徳利の上に愛らしい小鳥が一羽とまっているというもの。これに酒を入れて盃に注ぐと、不思議不思議、小鳥が♪ピヨピヨッ・ピュー♪とさえずるのである。

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うぐいす徳利・梅木(美濃焼)

音が出るしくみは、水笛の原理の応用だ。『うぐいす徳利』の内部は縦に二分割された構造で、底部で連結されている。だから酒を注ぐ際には水位の変化が生じ、それに応じて空気が出入りし、小鳥の形をした笛を鳴らすのだ。『うぐいす杯』というのもあって、こっちは飲み口に笛がついていて吸うと音が鳴る。

誰が考え出したのか、いつの頃からあるのか。酒が庶民に広く親しまれるようになったのは江戸時代で、その頃から陶磁器製の酒器が作られるようになり、遊び心のあるさまざまな形やデザインの酒器が誕生した。そのなかのひとつであろうと考えられているが、実際にこの『うぐいす徳利』が流行したのは明治から昭和にかけてであった。

 

コレクターの方のサイトを見せていただくと、萩焼や清水焼、九谷焼のアンティークな『うぐいす徳利』が紹介されていた。いずれもカタチはほぼ同じだが、全面に花が描かれたものや金や赤を使ったド派手なのもあった。

残念ながら『うぐいす徳利』は♪ホーホケキョ♪とは鳴かないけれど、♪ピヨピヨッ・ピュー♪はそれなりに愛らしい。1点1点微妙に鳴き方も異なるので、聴き比べをするのも一興。江戸では小鳥を飼うことが流行していて、手飼いのウグイスを持ち寄って、その声の優劣を競う『うぐいす合わせ』なる遊戯もあったというから。一杯やりながら遊戯に興じる姿が目に浮かぶようだ。

 

それにしても『うぐいす徳利』、なぜ六角柱なのか考えてみた。至った答えは、丸っこい徳利型よりもこの方がアウトドアへ持ち出しやすいということ。何本かを箱なり籠なりに収めたとき、六角形なら隣同士がぴったりくっついて収まりがいいし、倒れにくく、運びやすいだろう。

 

桜の花見はまだ少し先だが、梅なら今が見頃だ。春本番を待ちわびながら『梅にうぐいす徳利』というのも”乙”だね。美しい日本の春を肴に、♪ピヨピヨッ・ピュー♪ってやったら、さぞ愉しいだろうな。さて、こんなウイットに満ちた『うぐいす徳利』だが、最後にひとつだけ、知っておいた方がいいことがある。それは、

 

宴が終わって、徳利を洗ってるときにもピヨピヨ鳴いちゃうってこと(笑)。

 

 

<参考文献>

酒道・酒席歳時記 著/國府田宏行 発行/菊水日本酒文化研究所

うぐいす徳利・梅染錦(美濃焼)

​美しいカラーバージョンもあります。

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