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食べる米と酒になる米の違い

お酒の豆知識 食べる米と酒になる米

8月も後半になると、南の地方から新米収穫の便りが届くようになります。代表銘柄は何といってもコシヒカリでしょうか。しかしそれぞれの土地の気候や風土に適した地域限定の品種も栽培されていて、その総数は500種類以上にもなるとか。お気に入りの品種が決まっていますか?

 

2021年産うるち米の品種別作付割合を見ると、上位5品種と主な産地は以下の通り。

1位:コシヒカリ/新潟、茨城、栃木

2位:ひとめぼれ/宮城、岩手、福島

3位:ヒノヒカリ/熊本、大分、鹿児島

4位:あきたこまち/秋田、岩手、茨城

5位:ななつぼし/北海道

※(公社)米穀安定供給確保支援機構

 

以下、6位:はえぬき、7位:まっしぐら、8位:キヌヒカリと続きますが、1位〜5位までで作付割合全体の60.6%を占め、コシヒカリに至ってはそれだけで33.4%!ダントツの人気なんですね。

 

以上8品種はすべて、ごはんとして食べる品種、いわゆる食用米(飯米)です。食用米で造った日本酒がないわけではないですが、一般的ではありません。日本酒の原料になるのは『酒造好適米』と呼ばれる通称『酒米』。品種としては100種類以上あるのですが、スーパーの店頭で目にする機会はほとんどないでしょう。

 

では、食用米と酒米はどこが違うのか。酒米の特徴を見ていきます。

 

1)粒が大きく砕けにくい

米の胚芽や外層部にはタンパク質や脂質などが多く含まれています。これらは酒の雑味となってしまうため、酒米の場合は玄米の表面を30%〜50%削り落としてから使います。食用米が玄米を8〜10%削って糠を落とす程度なのに比べ、精米に耐えられる大きさと強さが求められるのです。

では、どれくらい大きいのでしょうか。米粒の大きさは、1000粒あたりの重量を測定して表します。2013年の農水省の資料では、コシヒカリの千粒重が22.4gなのに対して、酒米の五百万石は25.5g、山田錦は28.2gもありました。

2)心白(しんぱく)がある

酒米の中心部には、白くて不透明な「心白」があります。食用米はデンプンが詰まっているため透明感がありますが、酒米の中心はデンプンが粗く、隙間があるために白く見えるのです。しかしその隙間があるおかげで、麹菌が内部へ菌糸を伸ばしやすくなり、デンプンの糖化が進み、結果としてアルコール発酵を促します。心白が発現しているだけでなく、その形、大きさ、位置が中心にあることが、いい酒米の条件なのです。

 

 

 

3)外硬内軟で仕込みやすい

米を蒸した際に表面がさらっとしていて捌けがいいとか、仕込んだ際にもろみが溶けやすいのも酒米の特徴。稲のときも米粒が大きくて重いために倒れやすく、一般の食用米よりも栽培が難しいと言われる酒米ですが、酒造りの長い歴史の中で数え切れないほどの異種交配を繰り返し、酒造りに適した米へと改良されてきました。

 

酒米の人気銘柄は、兵庫県が主産地で酒米の王者といわれる『山田錦』、新潟県で開発された『五百万石』がツートップです。店頭に並んだボトルを見ても、これらを原料に造られている製品は、ラベルにそう明記されていることが多いように思います。

 

おいしい米と、おいしい酒になる米では、特徴が異なることがわかりました。じゃあ酒米を炊いて食べたら、どんな味なの? 本当においしくないのでしょうか? 菊水酒造さん(新潟)のオウンドメディアを編集していたスタッフ3名で『酒米を食べてみ隊』を結成し、実際に炊いて食べてみることにしました。

 

入手した酒米は、新潟・新発田産の五百万石の玄米。隊員は、チーフエディターのN、デザイナーのE、そして私。三者三様の実食レポいきまーす。

 

<E>

玄米を水に10時間以上浸してから炊飯器で普通に炊きました。玄米だからか炊きあがりの匂いが香ばしく、プチプチした食感がたまりません。大人だけにわかるおいしさかと思ったら、3歳と6歳の子どももパクパク食べておかわりしていましたよ。

 

<私>

米屋の店主と何度か飲んだことがあったので、図々しく持ち込んで、五つ星お米マイスターの中丸真一氏に最適に精米してもらいました。モチモチ感や甘みは少ないけどパサパサというわけじゃなく、コシヒカリよりササニシキ派の自分にはおいしい。五百万石で握った鮨なんて、食べてみたいなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<N>

玄米を棒で突っつく人力精米にチャレンジするが、1時間以上突いてもほぼ変化なし。精米器と銀シャリの偉大さを感じつつ、人力精米をあきらめて、精米した五百万石を実食。酒米は醸してなんぼ!食べても美味しくないでしょう。そう思い込んでいたが「あれっ意外と食べられる」というのが第一印象。香りはやはり食用米にはかなわないが、食感はそんなに悪くない。なんか懐かしいこの感じ。あっそうか、昔、学生食堂で食べた標準米の味と香りだ。

 

 

想定していたオチは、「炊いてもイマイチ。やっぱ酒米はおいしい酒を造るためにあるんだね」というものだったのに、意外においしくてビックリ!予想外の感動と発見があった酒米実食体験でした。

 

<参考文献>
新潟清酒ものしりブック 監修/新潟清酒達人検定協会 発行/新潟日報事業者

<精米協力>

中丸屋商店 tel.0467-82-2213

酒米の炊きたてご飯
食用米と酒米の心白
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