​芋焼酎

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©鹿児島市

世界で唯一のサツマイモの酒、
「芋焼酎」の甘い香りと深い味わい!

薩摩半島の南端、鹿児島県指宿市。標高924mの開聞岳が美しくそびえ、南方海上はるか遠くに屋久島が見晴らせる山川町に『ファームランド豊』の畑が広がっていた。

 

このあたりの年間平均気温は18℃。冬でも霜が降りることがない。この温暖な気候を活かして、露地栽培による旬の野菜類を日本で一番早く出荷することができる。

 

土壌は黒く、5mm〜1cmほどの荒い粒状だった。開聞岳の噴火でできた火山礫によるものである。鹿児島は全体に桜島の噴火灰に覆われたシラス台地が多く、排水性と通気性には優れるが稲作には適していない。だけど、芋焼酎の原料となるサツマイモにはむしろ好都合。畑で作業していた方によると、根が水を求めて地中深く伸び、丈夫に育つのだという。

 

また、サツマイモには痩せた土地でもグングン育つ驚きの性質がある。植物はふつう土壌中の窒素化合物を養分として根から吸収して育つのだけど、サツマイモはそれだけじゃない。茎の中に窒素固定細菌という微生物を共生させていて、なんと空気中の窒素も利用することができるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サツマイモはヒルガオ科の植物で、原産地は中南米。サツマイモというくらいだから薩摩で生まれたイモかと思いきや、中南米からヨーロッパへ渡り、中国、琉球を経て1700年頃に鹿児島へ伝わったとされている。だから別名『唐芋(からいも)』というわけだ。

 

しかしこんなに世界中に広まったサツマイモなのに、サツマイモを主原料にした酒は日本の芋焼酎以外にはない。どうしてなんだろう?……

 

農林水産省の統計では、2020年に鹿児島で生産されたサツマイモの量は21万4700トン。もちろん日本一で、全国の31%を占めている。ちなみに第2位は茨城で18万2000トン、3位は千葉9万200トン、4位は宮崎6万9100トン。鹿児島と宮崎は主に焼酎用で、茨城や千葉は生食用だ。

 

芋焼酎の原料として、ほとんどの蔵で最も多く使われているのは『黄金千貫(コガネセンガン)』という品種である。皮は黄褐色、肉は淡黄色の白系サツマイモで、デンプン質に富み、食べてもおいしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただし、皮が赤い紅芋や紫芋の多くが収穫後2カ月ほど貯蔵した方が甘みが増すのに対し、黄金千貫は鮮度が大事。傷みやすく、鮮度が焼酎の味を大きく左右するため、畑からすぐに工場へ運び込まれる。だから、黄金千貫を使った芋焼酎は、その収穫時期にしか仕込むことができないのである。

では、芋焼酎の原料としてよく使われる品種と特徴、焼酎にしたときの味わいの傾向を見ていこう。

 

■黄金千貫/皮色:黄褐色 肉色:淡黄色

デンプン質に富み、芋焼酎に最も一般的に使われる白系サツマイモで、1972年に奨励品種に指定された。ふんわりとした甘い香りのまろやかな焼酎に。

 

■ジョイホワイト/皮色:白色 肉色:白色

焼酎原料として開発された品種。黄金千貫よりも収穫量は少ないが、デンプン質は多く、貯蔵性にも優れる。フルーティーな香りと淡麗な味わいに。

 

■ベニハルカ/皮色:赤紫色 肉色:黄白色

もとは食用として開発された品種で、糖度が高く、外観が美しい紅系サツマイモ。甘い風味が強く感じられ、やわらかで濃醇な甘みの味わいに。

 

■ムラサキマサリ/皮色:濃紫色 肉色:紫色

ポリフェノールの一種アントシアニンたっぷりの紫系のサツマイモ。焼酎にするとヨーグルト系の風味が広がり、爽やかですっきりした味わいに。

 

かつては、黄金千貫を原料にした芋焼酎がほとんどだったけど、近年は蔵元がさまざまなチャレンジをしていて、品種による味わいの違いも楽しめるようになってきた。銘柄による飲み比べもいいけど、サツマイモの品種による飲み比べもオモシロイだろう。

さらに芋焼酎は、その造りによっても香味の違いが楽しめる。サツマイモはそのままではアルコール発酵しないので、米に麹菌を繁殖させた『麹』を使ってサツマイモのデンプン質を糖化するわけだが、その麹菌には白・黒・黄の3種がある。どれを使うかで、ぜんぜん違う。最近では麹原料に米を使わず、サツマイモで行う酒もある。

発酵したもろみの蒸留は単式蒸留器で行われるが、常圧蒸留か減圧蒸留か。どんな蒸留機を使うか?蒸留後はタンクに貯蔵したのか、昔ながらの甕で長期貯蔵したのか。木桶を使った蒸留やウイスキーのような樽に貯蔵した芋焼酎もある。ひとことに芋焼酎といっても、ホントに違うのだ。

<飲み方>

ロック、水割り、炭酸割り、どんな飲み方でもおいしいが、鹿児島や宮崎では、夏でもお湯割りで飲む方が多い。芋の甘〜い香りが立ち上ってきて鼻をくすぐり、口に含むとトロリとまろやかだ。比率は焼酎6対お湯4のロクヨンといわれるが、でもこれは好みの問題。ゴーゴーでもヨンロクでもOK。お湯を先に注いでから焼酎を加えると自然に対流が生まれ、温度も味も均一になる。​

 

 

<参考文献>

鹿児島の本格焼酎 著/鹿児島県本格焼酎技術研究会 発行/春苑堂出版

いも焼酎の人々 著/大本幸子 発行/TaKaRa酒生活文化研究所

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© K.P.V.B

【おすすめ芋焼酎】

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かんろ
京屋酒造(宮崎)

昔ながらの甕仕込みにこだわる小さな蔵元。白麹のやわらかな味わいで、じわっと心にしみてくる文句なしのうまさ。キャッチコピーは壺中貯春。

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黒伊佐錦
大口酒造(鹿児島)

知り合いの杜氏が、学生の頃はコレばかり飲んでたという庶民の酒。香りも味も干し芋のように甘いけど、もちろん糖分はゼロ。黒麹芋の入門酒。

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天無双
さつま無双(鹿児島)

黒麹で甕壺仕込み、木樽蒸留、甕壺熟成という昔ながらの造り。味わいが濃厚で、どっしり骨太。薄めのお湯割りにしても負けない。鹿児島限定。

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尾鈴山 山ねこ
尾鈴山醸造所(宮崎)

水の湧く山の奥深くで、手作業を大事にしている蔵。原料芋にジョイホワイト、麹米にヒノヒカリを使い、白麹のスッキリした味。ラベルもいい。

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さつまおごじょ
山元酒造(鹿児島)

「五代」と「蔵の神」が代表銘柄だが、その上をいくうまさ!芋の甘さと黒麹によるスパイシーな香りがマッチした絶妙なバランスに、しみじみ…

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錫神
神酒造(鹿児島)

蒸留器に今では珍しい錫の管を採用。その触媒作用で酒質がやわらかくなり、どこか懐かしい味わい。黒麹仕込み、3年の長期熟成。鹿児島限定。

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枕崎
薩摩酒造(鹿児島)

代表銘柄・白波で有名な大手だが、本製品は100年以上使ってきた、かめ壺86個で仕込むこだわり酒。白麹仕込みとは思えないほど濃厚な味わい。

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黒七夕
田崎酒造(鹿児島)

田崎真也氏が著書で絶賛していた。まさか同名だからってことは…笑。芋の甘さは控えめで、黒麹らしいシャープな香りが立って、辛口派には最高

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かぶと莫祢氏(あくねし)
大石酒造(鹿児島)

博物館に残る古式「かぶと釜」を自ら再現し、とことん手間と時間をかけて蒸留。芋は地元の「シロユタカ」、黒麹・甕仕込・甕貯蔵。唯一無二。

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赤利右衛門
指宿酒造(鹿児島)

南薩摩産の「紅さつま」を黒麹で醸した原酒に、黄金千貫を白麹で醸した原酒をブレンド。甘く、華やかな香りと、とろっとした濃厚なおいしさ。

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紫芋焼芋 農家の嫁
霧島町蒸留所(鹿児島)

焼芋焼酎「農家の嫁」シリーズ。県産の紫芋「頴娃(えい)紫」を芯まで焼いてから甕で仕込んだ。果実のようにフルーティな香りと濃厚なうまさ。

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吹上焼酎 安納芋
吹上酒造(鹿児島)

蒸かしただけでねっとりと甘く、スイートポテトのような「安納芋」。種子島産の希少な安納芋で造った、甘〜く芳醇な香りと味わい。数量限定。

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薩摩の恵
田苑酒造(鹿児島)

5種類の鹿児島産サツマイモを使って別々に仕込んだ飲み比べセット。それぞれ麹菌や酵母、蒸留方法も変えていて、香りも味も違う。贈り物にも

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ENVELHECIDA
エンヴェレシーダ
田苑酒造(鹿児島)

難しいとされてきた芋焼酎と樽との融合に成功。芋の甘さと樽による甘さがひとつになって、飲んだ後のグラスまで甘い。ボトルデザインも秀逸だ