焼酎ヌーヴォー解禁
ヌーヴォーは、その年はじめてできた新酒。ワインのボージョレ・ヌーヴォーは広く世界に知られるところだけど、日本の清酒界でも、秋に収穫した米を仕込んで春いちばんに搾ったものを『新酒』と呼んで、そのできを讃える。
でも、この記事は焼酎の話、本格焼酎のヌーヴォーだ。焼酎ファンのみなさんでも、焼酎に新酒があるなんて聞いたことないという方も多いのではないだろうか…。
ただし、焼酎ヌーヴォーが楽しめるのは芋焼酎だけだ。サツマイモは、収穫後、少し貯蔵した方が糖度が増す品種が多いのだが、芋焼酎の主要原料である『黄金千貫』は傷みやすく、新鮮なほど美味。だから9月に収穫されたら、すぐに酒造がスタートする。
そういう意味では、黄金千貫を使った芋焼酎は、その収穫時期にしか仕込むことができないのである。
そして、秋いちばんに仕込んだ芋焼酎が、10月後半には蒸留のタイミングを迎える。本格焼酎は蒸留したのち最低でも3カ月以上熟成させるのが普通だが、芋焼酎だけは、すぐにでも楽しむことができるのだ。蒸留したてという意味で、鹿児島では『煮たて』と呼ばれ、珍重されてきた。
その年度初の酒造が成功したことを感謝し、披露する意味もあるのだろう。「今年もいい酒ができました」「熟成を経て、さらにいい味になりますよ」「ごひいきに」。そんな思いを込めて、蔵元では新酒祭りを開催し、地域の方々や得意先を招いて、縁起のいい煮たてを振る舞う。
『煮たて』は、まさに焼酎のヌーヴォーだ。熟成していない荒々しさは野性的な味わいであり、実際にサツマイモや麹に由来する成分を多く含んでいる。この成分は貯蔵すると徐々に少なくなって、深み、丸みのある味わいへと熟成していくのだが、『煮たて』はやはり秋にしか味わえないというスペシャル感が魅力だろう。
かつては蔵元に近い地域でしか飲めなかったが、昨今は店頭にも並ぶようになった。ラベルに『煮たて』ではなく『新酒』『新焼酎』と書かれているものも同じ。まだ香味が安定しておらず、時を経るごとに味わいが少しずつ変化してしまうのを嫌って、蔵元は期間限定・数量限定でしか出荷しない。
各蔵から『煮たて』が出るのが10月下旬から11月初旬であることから、日本酒造組合中央会によって11月1日が『本格焼酎の日』に制定されている。10月の『神無月』は、日本中の神様が出雲大社に集まって留守になってしまう月であり、11月1日は神様が鹿児島へお帰りになるめでたい日でもあるのだとか。
<参考文献>
焼酎 一酔千楽 著/鮫島吉廣 発行/南方新社
鹿児島の本格焼酎 著/鹿児島県本格焼酎技術研究会 発行/春苑堂出版
お酒と文化
【焼酎ヌーヴォー】
さつま五代ヌーヴォー
山元酒造(鹿児島)
今年の初堀り芋を黒麹で甕壺仕込みした自信作。新酒ならではのフレッシュ感あふれる香りと、この時期にしか味わうことのできないうまさを!
種子島 甘露 新焼酎
高崎酒造(鹿児島)
芋焼酎発祥の地・種子島に蔵を構える高崎酒造の代表銘柄の新焼酎。限定1500本。とれたての新鮮な芋の香りと若々しい甘みとうまみが楽しめる。
伊佐大泉 新焼酎
大山酒造(鹿児島)
蔵の代表銘柄のできたて新焼酎。少し荒々しく白濁しており、風味満点。通常の熟成されたまろやかな大泉を知る人にこそ味わっていただきたい。