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桜・さくら・サクラ
お酒と文化 桜 花見酒

春分の日を待たずして、もう花の便りが届きはじめた。桜の開花は年々早くなっているようで、日本気象協会の発表によると2023年の開花トップは3月14日だったとか。そこから5月半ばにかけて、あたり一帯を淡いピンク色に染めながら桜前線は日本列島を北上してゆく。

 

開花情報の対象となっているのはソメイヨシノという品種である。校庭の満開の桜の前で、卒業式や入学式の日に写真を撮ったという方も多かろう。TVドラマやミュージックPVでもよく目にするし、ひらひらと舞い散る花びらは、いかにもはかなげ。咲き誇る華やかさ以上に、散りゆく切なさが胸を打つ。

 

桜並木の木々が1週間ほどの間に一斉に咲いてパッと散るのは、みんな同じ遺伝子を受け継いでいるからだ。ソメイヨシノは人がつくった栽培品種であり、日本全国のソメイヨシノはすべて接ぎ木などで増殖したクローンなのである。

 

つくられたのは江戸末期で、もとになったのはエドヒガンとオオシマザクラ系の雑種。東京の染井村(現・豊島区駒込付近)に集落をつくっていた植木職人たちが開発したという。ソメイヨシノの「ソメイ」は村の名前だったんだね。「ヨシノ」の方はどうなんだというと、なんと奈良の桜の名所である吉野山にちなんだネーミングらしい。

お酒と文化
お酒と文化 吉野の桜

吉野山

ホンモノの吉野山の桜は、ヤマザクラという日本固有の野生種である。東北南部から九州まで広く分布していて、吉野山には3万株ともいわれるシロヤマザクラが豪華絢爛に咲き乱れる。

 

もともとは山岳宗教と結びついた桜で、御神木の献木として植え続けられたものだけど、昔の貴族たちは「桜狩り」と称して花見の宴を設けた。そして、のちに一般庶民もこぞって花を愛でるようになったわけだ。

花見の酒は、やはり日本酒だろうか。ビール業界もこの時期限定の桜ラベル缶などを売り出してはいるが、どうあっても一片の花びらを浮かべた盃にはかなうまい。ひらりひらりと花びら舞い散るなかで、静かに盃を傾ける。カラオケやドンチャン騒ぎは、もってのほかだが、カップ酒だって最高の美酒になる。

花見酒 花びらを浮かべて

野生種のヤマザクラは1本1本違う遺伝子を持つので、花の形や色もそれぞれ異なる。同じ気象条件下でも一斉に咲いて散ることはない。開花と同時に若葉も出てくるので、ピンク一色に染まる景色にはならないが、ほのかに香る花が見られることもあるという。

 

そういえば、桜の花の香りって知ってますか? ソメイヨシノにもメジロやヒヨドリがやってきて花の蜜を吸っているのを見かけるので、そこにはきっと甘~い味や香りがあるのでしょう。でも桜の香りといわれて思い浮かぶのは桜餅か(笑)。

 

桜餅の芳香はクマリンという物質の匂いだ。桜の葉にはクマリンのもとになる液胞が存在していて、そのままでは香らないが、塩漬けにされて細胞が壊れることで香を放つようになるのである。現在の桜餅に使われるのはオオシマザクラの葉が多いらしいが、桜餅の発祥当時はヤマザクラの葉だった。

 

ヤマザクラは樹高20メートル以上・直径1メートルにも達する。材質が強靭で美しいので、木材としても有用。古くから家屋の内装材や家具調度品、工芸品、楽器などに用いられてきた。江戸時代の浮世絵や書物の版に使われていた木も、そのほとんどがヤマザクラである。

先日、このヤマザクラの木を使った樽で貯蔵した焼酎をいただいた。『桜ゴールド』という麦焼酎。よくあるオーク材の樽で貯蔵した焼酎と、どう違うのだろう?

桜はバラ科。ヤマザクラの木には、バラ科特有の甘い香気成分が含まれているというから……。

 

……なるほど、なるほど。甘い香りは、どこまでも上品でやさしく、味わいはまろやかで深みがある。これが桜の木によるものなのか。穏やかな甘さが余韻として残り、飲み干したあとのグラスも甘くて、とってもスモーキーで、あてには燻製が一番だろうと。

花見酒 サクラ材でスモーク

サクラ材をスモークチップにして燻製を作った。

1)中華鍋の内側をアルミホイルで覆い、スモークチップをひとつかみ。

2)網を乗せ、具材を並べる。チーズ、ゆで卵、ナッツなど。

3)フタをして火にかけ、煙が出だしたら中火に。約10分で完成。

 

コロナ禍のなか、花見の宴会はがまんして。近所の桜並木で花を愛でたあと、サクラチップの燻製と『桜ゴールド』で春を満喫する。

田苑 桜ゴールド

​桜材を使った樽で貯蔵熟成させた麦焼酎。クラシック音楽を聴かせて発酵・熟成させている。まろやかで、ほのかに甘い味わいが、まさに春を感じさせる

お酒と文化 田苑桜ゴールド
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