風呂敷に包む
鎌倉駅の西口から佐助の交差点へと向かう、なだらかな坂道を白い日傘を差した女性が上ってきた。淡い藍鼠色の絽の着物に、アイボリーの帯と淡いピンクの帯締め。まだ午前中だったけど空には太陽がギラギラしはじめていて、でもそのひとだけは別の涼しい空気をまとっているかのようだった。すれ違うとき、なぜか少し緊張した。
日傘に隠れた表情はよく見えなかったけれど、折り曲げた左腕に四角い風呂敷包みが乗っていた。あれはたぶん、お中元の贈りものだったのだろう。包まれていたのは、そうだな、老舗の菓子舗で求めてきた水菓子だったかもしれないな…。毎年、そろそろ梅雨も明けようかというころになると、ふと、そのひとのことを思い出す。
お中元の時期は、地域によって少し異なる。北海道では7月中旬から8月15日まで。東北や関東では7月初旬から15日までと短く、7月16日以降は暑中見舞い、残暑見舞いという扱いになる。北陸・甲信越は関東型の地区と北海道型の地区に分かれ、東海・関西・中国・四国では7月中旬から8月15日。九州では8月1日から15日までが一般的だが、沖縄だけは旧暦の7月15日までとなっている。
もともとは先様へ直接持参するものだったのだろうが、現在はもちろん配送してもらうことがほとんどだ。さらには特設コーナーへ出向くこともなく、ネットで簡単に品を選ぶこともできる。もはやコミュニケーションではなく、モノのやりとりに終わってしまったのか。遠方の方に贈る場合はしかたないとしても、1時間かからない距離なら持参したい気がする。そう、風呂敷に包んでね。
「包」という字は、母の胎内に子が宿っているさまを表しているという。包むことは、そこに包まれているものを大切に「いつくしむ」気持ち。母体から生まれ出ると、なるほど、子は「己」となるわけだ。
また「つつしむ」や「つつましい」という言葉は、包むが語源とされている。相手を思って贈答品を選び、相手を敬う心と一緒に風呂敷に包む。日本ならではの『包みの文化』といえるだろう。
さて、その風呂敷は奈良時代に宝物を包む布として使われたのがはじまり。風呂敷と呼ばれだしたのは室町時代からで、蒸し風呂の板場に敷いたり、全国から集まった大名たちが風呂場で脱いだ衣服を取り違えないように、家紋入りの布に包んだりしたのだとか。そして江戸時代には商人が商品を包んで運び、旅行の際には荷物を包んでカバン代わりにするなど使い方が広がっていった。
風呂敷は反物を裁断して、端を三ツ巻きに縫い上げてある。縫った両端が天地つまり丈で、生地の巾が左右である。じつは正方形ではなく、巾よりも天地が若干長い。サイズは巾という単位で表し、中巾(約45cm)から七巾(約230cm)まで10種類ほど。通常私たちがよく目にするのは、二巾(約68〜70cm)から二四巾(約90cm)だ。
風呂敷を使った包み方はいろいろあるが、菓子折などを包む際の代表的なものは「お使い包み」。
■お使い包み
1)風呂敷をひし形に広げ、包むものを中央に置く
2)手前の角を箱にかぶせ、その上に奥の角をかぶせる
3)左右の角と角を真結びする
四角いものだけでなく、酒などの瓶を包むこともできる。しかも、ぶら下げて持ち運びしやすいように包めるので、手提げ袋がいらないのもうれしい。
お酒と文化
■一升瓶包み/二四巾(90cm)の風呂敷を使う
1)風呂敷を広げ、瓶を中央に立てる 2)手前の角と奥の角を瓶の上で真結びにする
3)左右の角を瓶の向こう側で交差させ 4)正面で真結びし、きれいに整えて完成!
■瓶2本包み/720mlの瓶なら二巾(68~70cm)が最適
1)間を開けて瓶2本を倒して並べ、手前の角をかぶせる
2)瓶を転がして風呂敷を巻き切る 3)瓶2本を立たせ 4)真結びして完成!
中身の入った状態で720ml瓶1本の重量は約1.2kgほどなので、力のない方でも難なく持てる。ちなみに一升瓶(1800ml)だと重量は約2.8kgあるけれど、持ち手がポリ袋みたいに指に食い込まないので痛くならない。
市場に出まわっている風呂敷の色柄も豊富で、伝統的な和柄からモダンなデザインのものまでいろいろある。そこに贈る人のセンスも発揮できるってもんだ。お中元やお歳暮の贈り方としてはじつに風流で粋だし、パーティなどお呼ばれの際にこんなふうに持参したら、かなりインパクトありそう。
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